野生と自然の力、生きるということ
南北線『すすきの』と『大通』からも徒歩圏の雑居ビルの2階、くもりガラス越しに光を放つ扉を開く。札幌で旨いジビエ料理、美味しい肉料理のビストロといえば、必ず名前があがる『ゴーシェ』の入り口である。
地物食材と、シェフ渾身の自然派料理
お肉料理を極めた小鹿シェフの料理。バスク仕込みのシャリュキュトリーも評判である。
ジビエは冬場がメインシーズンとはいえ、初夏の北海道の味覚とともに、ゴーシェならではのジビエ料理のお品書きに目移りしてしまう。
できたら友人や仲間と訪れたい店ではあるが、ひとり、ゴーシェカウンターの居心地の良さも魅力である。おひとり様での来店の場合は、量などを調整していただけるのも嬉しい。
アルザスと北海道の親和性
輝く美しさ!今日の最初のグラス、アルザスのリースリング
ふくよかで複雑な果実味、それでいてスッとしたミネラルも感じられる。
LA CHIMERE solera / ラ・シメール
生産者:ドメーヌ・ブランド / アルザス フランス
品種:リースリング
今宵は北の味覚の前菜を
『ニシンとホタテ、焼きナスのタルタル 冷静グリーンアスパラ添え』
ニシンとホタテとアスパラという、北海道ならではの組み合わせ。
ナチュラルなワインにぴったりなのは言わずもがなではあるが、地のものを、美味しいフレンチのあしらいで頂けるのは格別である。
「ワインは、フランスのナチュラルワインがメイン時折、道産のワインもグラスで登場」
アツシスズキのパストゥグラン2019年。チャーミングな酸とスミレの花びらのような柔らかく可憐な厚み。この先再び巡り会えるかわからないけれど、記憶しておきたい味わい。
Atsushi Suzuki Passetoutgrain 2019 /
アツシスズキ パストゥグラン
生産者:ドメーヌアツシスズキ / 北海道 余市
品種:ピノ・ノワール70%
ツヴァイゲルト30%
北の大地の滋味
『エゾシカ』
木目が細かい柔らかい赤みのエゾシカ。おひとり様用にプレートをご用意頂いた。
癖がなくピュアで優しい味わい。大切に調理されたひと品に、心が満たされる
自然とは?生きるとは?
北海道にゆかりの深い赤煉瓦の壁、祀るように飾られているスワッグ。エゾシカの角を、フラワーアレンジメントのアーティストに依頼してしつらえて貰ったそうだ。自然や生命の営みや循環への丁寧なリスペクトを垣間見る。
そんなゴーシェのボトル達
自然派のワインは生産量も少なく、いつも同じものがあるとは限らない。一期一会でもあるが、小鹿さん達の思い入れのある生産者や、今、ゴーシェのお料理に合わせたい旬のボトル達を見せていただく。
「デュシェンは、パリでたまたま隣り合わせたご夫婦が飲んでいたんですよ。初めてボトルエチケットを見た時に、可愛いと思って
『それ美味しいですか?』と尋ねたら
『すごい旨いから飲んだらいいよ!』と返ってきて
買ってきて飲んでみたら、本当にすごい美味しかった。デュシェンを訪ねる機会も一度あって、彼もエチケットの絵のように、陽気な方だったんです」
おふたりにとって思い出深いワインである。
ジャンファイアールのモルゴンは、小鹿さんが、ナチュラルワインに出会った頃に一番印象に強く残ったワイン。こんなに美味いワインがあるのかと思った。その後、マルセルラピエールのヌーボを頂く機会もあり、その味にも衝撃を受けたそうだ。
小鹿さんは、後に、リオンで活躍されている有名シェフ、石田克己さんと出会うことになる。沢山の素晴らしい料理を振い、健全な食材やナチュラルワインと真剣に向き合っている姿に学ぶことも多かったという。フランスでの経験から、帰国後、すぐにナチュラルワインを扱いたかったが、もともとジビエは高級でオーセンティックなグランヴァンなどと合わせたりしている慣習も色濃く、ナチュラルワインのような、若目のワインとは合わないとも言われ、当時の札幌ではまだ理解されない空気があったという。そんななかでも、絶対的に、ジビエとナチュラルワイン、自然なもの同士が合うと確信があったので、いかにこれを主軸として実現していくかということを考えてきた。
(左から)
Bruno Duchêne Vall Pompo /
ヴァル・ポンポ 2014
生産者:ドメーヌ・ブルーノ・デュシェン /フランス ラングドック
品種:グルナッシュ・ブラン
Domaine Romaneaux-Destezet /
ドメーヌ・ロマノー・デストゥゼ
生産者:ドメーヌ・ロマノー・デストゥゼ / フランス ローヌ
品種:ヴィオニエ60% ルーサンヌ40%
Cheverny Rouge Le Clos des Carteries 2020 /
ル・クロ・デ・カルトリー
生産者:クリスチャン・ヴニエ / フランス ロワール
品種:ガメイ、ピノノワール
Dom. Lous Grezes Cuvée D&D Cévennes 2014
生産者:ルス・グレゼス / フランス ローヌ
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン
Morgon 2016 Jean Foillard Morgon Côte du Py /
モルゴン2016 ジャン・フォワイヤール モルゴン コート・デュ・ピィ
生産者:ジャン・フォワイヤール / フランス ボジョレ
品種:ガメイ
「美味しいものをリラックスして楽しんで食べるそこにナチュラルワインがある」
シェフの小鹿陽介さんと、サービス全般を担当される奥様の小鹿陽子さん。
「料理人が主役ではなく、お客さんが主体で楽しく過ごせる。自分達も行きたいと思えるような店をしたい。そして長く続けていきたい」ふたりが語るところの『ゴーシェ』の原点が、健全で幸せな人生の原点と重なる。
シェフ 小鹿陽介
料理の鉄人、王様のレストランといった、鉄人シェフが活躍していた当時の時代背景も手伝い、もともと、食べることも作ることも興味があり調理の道へ。調理学校在学中に洋食に興味を持つことになり、卒業後、札幌市内のホテルやフランス料理店に勤務。その後31歳で渡仏。フランスではパリやバスクで4年間修行を積み、帰国後市内のレストランで調理長を務める。シャルキュトリーの勉強をするために渡ったバスク地方で狩猟の経験をしたことがきっかけで、帰国後、ジビエの知識を深め、狩猟の免許も取得。自ら山へ狩りに出向く。2015年、ジビエと自然派ワインを楽しむ、フレンチビストロ『ゴーシエ』をオープン。
光の扉の内側
クリーンとグレー、木材とレンガ、ゆったりとした時間が流れる。
Interview / photo / text
山脇ミチル|Michiru Yamawaki
ゴーシェ(gaucher)
住所 :北海道札幌市中央区
南3条西8-7 大洋ビル 2F
電話番号:011-206-9348
営業時間:17:00~22:00
定休日 :火曜日
SNS :Facebook
※お店の情報は取材を行った(2022年6月)のものです。
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